家づくりの予算の話は、たいてい会社を決めるところで終わります。坪単価を比べ、見積もりを並べ、ここなら大丈夫そうだと契約する。ところが金額がいちばんよく動くのは、そのあとからです。
契約書の金額は、その時点で決まっていることの合計です。注文住宅でも規格住宅でも、契約のあとには「これから決める項目」がいくつも残っています。ひとつひとつは、総額から見れば小さな金額です。それが打ち合わせのあいだに積み重なり、引き渡し前に総額を見て驚く。この流れには、はっきりした仕組みがあります。
予算が動きはじめるのは、会社を決めたあとから
工事請負契約の時点で決まっているのは、建物の大きさ、間取りの骨格、標準として選んだ設備や建材の組み合わせです。そこから引き渡しまで、色・素材・位置・数を決める打ち合わせが続きます。出てくる選択肢は、多くの場合「標準のまま」か「標準から変える」か。変えるほうを選ぶと差額が出ます。下がることもありますが、上がるほうに傾きがちです。より良いものを見せられて選ぶ場面だからです。
ここに、金額が見えにくくなる事情が重なります。差額は1件ずつ提示されるのに、総額は契約時の見積書に書かれたままだということです。「この食洗機なら差額8万円です」と言われたとき、比べているのは8万円と便利さで、総額が今いくらかではありません。
契約から引き渡しまで、金額が動く3つの場面
1. 仕様を決めていく打ち合わせ
キッチン、浴室、洗面、床材、建具、クロス、照明、コンセントの数と位置。標準の範囲から外れると、そのつど差額が出ます。天板の素材、床材のグレードといった置き換えです。
動きは一方向ではありません。グレードを下げれば減額になる項目もありますが、それは自分から聞かないと出てきにくいものです。「ここは標準のままでいいので、そのぶん別に回せますか」と聞いてみてください。
2. 現場に入ってから分かること
地盤改良は、調べてみるまで要否も工法も決まりません。契約書の時点では金額を置けない種類の支出です。給排水の引込みや高低差の処理も条件で変わります。仕様の差額は自分で選んだ結果ですが、こちらは選べません。選べない支出があるからこそ、選べる支出に枠を残すのです。
3. 変更契約という手続き
建設業法では、工事内容や請負代金の額、工期といった契約書の記載事項を変更するときも、その変更内容を書面にして双方で取り交わすことが求められています(第19条第2項。同条第3項により、相手方の承諾を得れば電磁的方法によることもできます)。実務では、変更点をまとめて着工前や引き渡し前の区切りで結ぶ会社が多いようです。
ここが施主にとっての節目です。変更契約書には変更後の請負金額が書かれます。積み上がった差額が、はじめてひとつの数字になって目の前に出てくる。裏を返せば、それまで総額は更新されていないことがあります。なお契約金額が増える変更契約書には、増えた金額に応じた印紙税がかかります。
変更には締め切りもあります。工程は会社によって前後しますが、目安は次のとおりです。
| 決めるもの | 動かしにくくなる目安 |
|---|---|
| 間取り、窓の位置と大きさ | 建築確認申請を出す前 |
| 構造にかかわる変更 | 着工前 |
| 電気配線、コンセントの位置 | 壁の下地を塞ぐ前 |
| 内装材やクロス、設備の色 | それぞれの工事に入る前 |
| 外構 | 別契約になることが多く、締め切りも建物とは別 |
建築確認を受けたあとの変更は、内容によっては計画変更確認申請が必要になり、費用と日数がかかります。軽微な変更として手続きが要らないかは、設計者に確認します。
足し算を止めるための、2つの歯止め
契約の時点で、これから決める項目を数えておく
借りられる上限いっぱいで契約すると、あとから足す余地が残りません。ここで住宅ローンの仕組みが効いてきます。借入額は本審査で決まった金額であり、工事金額が増えたからといって自動的に増えるものではありません。増額には改めて審査が要り、着工後に間に合うかは金融機関や時期によって異なります。間に合わなければ、増えた分は手元の現金から払うことになります。
「総額の何%を予備費に」という公的な基準はありません。数字を決めるより、契約の時点でこれから決める項目の一覧を出してもらうほうが現実的です。何項目残っているかが見えるだけで、構えが変わります。
変更のたびに、総額と毎月の返済額を更新する
差額を「月いくらになるか」に置き換えると、判断の手ざわりが変わります。金利1.5%・35年・元利均等返済で試算すると、借入100万円あたりの返済は月およそ3,062円です(2026年9月時点で、金利と返済方式を仮に置いた計算上の目安。実際の金利は金融機関や時期によって異なります)。
この換算なら、50万円の追加は毎月およそ1,531円。35年で返す総額は利息を含めて約64万円です。食洗機の8万円なら月およそ245円です。高いか安いかは人それぞれですが、比べる対象が「便利さ」から「35年の家計」に変わります。
まとめ——増えること自体より、見えないことが困る
打ち合わせで金額が増えること自体は、悪いことではありません。住んでからの使い勝手を考えて選んだ結果です。困るのは、増えたことが総額として見えないまま進み、変更契約や最後の精算ではじめて分かる、という順番のほうです。
やることは2つです。契約の時点で、これから決める項目の一覧を出してもらい、借入の上限いっぱいで契約しない。そして変更が決まるたびに、総額と毎月の返済額を更新する。どちらも「今の総額はいくらですか」と打ち合わせの席で聞けば始められます。