住宅ローンを組むことは、保険を見直す数少ないきっかけです。契約の前後に生命保険の証券を引っぱり出して、はじめて中身をきちんと読んだ——という方は少なくありません。
そのときにほぼ決まって出てくるのが、団体信用生命保険(団信)です。「団信に入るなら、生命保険は減らせますよ」と言われることもあります。減らせる可能性があること自体は別の記事でも触れています。ここで扱うのは、では何をどれだけ減らせるのかを自分で確かめる順番です。
何が要るのかを並べ、すでに備えているものを引き、残りだけを保険で埋める。金額ではなく、その順番の話です。
団信で消えるのは「ローン残高」だけ——残るお金を先に並べる
団信は、住宅ローンの契約者が返済期間中に亡くなったり、高度障害状態になったりしたときに、ローンの残高が保険金で返済される仕組みです。家族に返済が残らない点で、大きな支えになります。
ただ、消えるのはローン残高だけです。返済がなくなっても、暮らしの出費は残ります。
- 毎月の生活費——食費、光熱費、通信費、交通費。通信の基本料のように人数では減らない費目があるため、世帯の人数が減った割合ほどには減りません
- 教育費——進学の時期が先にあるほど、これから出ていく総額は大きくなります
- 家を持ち続ける費用——固定資産税、火災保険料、10年・20年の節目で出てくる修繕費
団信の種類や特約で保障の範囲が変わることは別の記事で扱っています。ここでは「何が消えて、何が残るのか」の線引きだけを押さえます。
土台になるのは公的な保障——遺族年金という骨組み
残るお金を、いきなり民間の保険だけで埋めようとすると、必要以上に大きな保障を買うことになります。先に足すのは公的な保障です。遺族年金は2階建てになっています(以下は2026年9月時点の制度です)。
1階が遺族基礎年金です。国民年金の被保険者などが亡くなったときに、子のある配偶者または子が受け取れます。ここでいう子は、18歳になった年度の3月31日までの子(障害等級1級・2級に該当する場合は20歳未満)です。子どもが高校を出る年度までの支えという性格が強く、子のいない配偶者は対象になりません。
2階が遺族厚生年金です。厚生年金に加入している間に亡くなったときに、遺族が受け取れます(過去の加入期間が長い場合など、ほかにも対象となる場合があります)。受け取れる遺族の範囲には順位や年齢の要件があり、亡くなったのが夫か妻かで扱いが変わります。とくに妻が亡くなった場合、夫の側は年齢の要件で対象にならないことがあります。額の基本は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。どちらの年金にも、亡くなるまでの保険料の納付状況についての要件があります。
働き方によって、1階だけの人と、2階まである人に分かれます。自営業やフリーランスの方は厚生年金に加入していないため、2階がありません。会社員から自営業に変わった方は、これまでの加入期間によって2階が出る場合と出ない場合があります。共働きでは、働き方の違いに加えて、どちらが亡くなったかでも受け取れる額が変わります。二人分をそれぞれ確かめてください。
足りない差額だけを、民間の保険で埋める
ここまでを1枚に並べてみます。右に出た差額だけが、民間の保険で考える範囲です。
| 残るお金 | すでに備えているもの | 差額の考え方 |
|---|---|---|
| 住宅ローンの返済 | 団信 | 団信に加入している人が亡くなった場合は、残高が返済されるため原則残らない。加入していない側に何かあったときは残る |
| 毎月の生活費 | 遺族年金、貯蓄、遺された側の収入 | 子が18歳になった年度を過ぎると1階が終わる。妻が受け取る場合は年齢などの要件で加算が付くことがあるため、終わった後にいくら残るかを年金事務所で確かめる |
| 教育費 | 児童手当、学資保険、貯蓄 | 進学の予定と時期から逆算する |
| 固定資産税・修繕・火災保険 | 貯蓄 | 家を持ち続けるあいだ、かかり続ける |
この順番で考えると、保険で埋めたいのは「生活費と教育費の必要額から、公的な保障と貯蓄と団信を引いた残り」になります。保険の話から始めると、この引き算を飛ばしたまま保障額を決めることになりがちです。
借り方によって団信に加入するのが誰になるかも、別の記事で扱っています。ここで押さえておきたいのは、加入していない側に何かあったときは残高が残る——つまり上の表の1行目が当てはまらない、ということだけです。共働きで二人の収入を前提に返済額を決めているなら、どちらに何が起きたときに残高が消えるのかを契約前に金融機関へ確認しておきましょう。
まとめ——保障は「額」より「順番」で決まる
団信で消えるのはローン残高です。生活費と教育費、家を持ち続ける費用は残ります。だからといって、その全部を民間の保険で用意する必要はありません。遺族年金という土台があり、貯蓄もあります。
足せるものを先に足して、残った差額だけを保険で埋める。この順番を持っていれば、勧められた保障額が自分に合っているかを、自分の言葉で確かめられます。数字は一般的な目安ではなく、年金事務所で確かめた自分の見込額で置いてください。資金計画を組み直すこの時期は、その確認にちょうどよい時期です。