共働きで家づくりを考えるとき、返済額は「いまの二人の収入」から逆算します。それで合っているのですが、30代で家を建てる方の多くは、そのあと産休・育休の時期を迎えます。

起きるのは、収入が永久に減ることではありません。一時的に下がって、また戻る——いわば谷です。想定内のはずなのに、深さと長さを描かないまま返済額を決めてしまいがちです。ここではその谷を扱います。

育休・産休の期間、世帯の手取りはどう変わるか

休業中は、給与の代わりに公的な給付を受け取ります。

時期受け取るもの水準
産前42日〜産後56日(単胎の場合。多胎は産前98日)出産手当金(健康保険)標準報酬日額の3分の2相当
育休開始〜180日目育児休業給付金(雇用保険)休業開始時賃金日額の67%
181日目以降育児休業給付金(雇用保険)同50%

どちらも、休む前の給与をならした額がもとになります(出産手当金は直近1年の標準報酬月額の平均を30日で割った額、育児休業給付金は休業前6か月の賃金を180で割った額)。

「3分の2」「67%」は心もとなく見えますが、手取りで比べると印象が変わります。育児休業給付金には所得税・住民税がかからず、健康保険料と厚生年金保険料も、勤務先を通じて申し出れば免除されるためです(育休については、その月の末日に休業中であるか、同じ月に14日以上休業していることが条件です)。そのため67%の期間は休業前の手取りの8割程度とよく説明されます。

ただし育児休業給付金には上限があります。もとになる賃金月額の上限が496,200円、67%の期間の支給上限は月332,454円です(2026年8月1日以降に休業を開始した場合。上限は毎年8月に見直されます)。給与がこれを上回る方は、実際の割合は67%より低くなります。

谷が深くなるのは、181日目からと復職後です

気をつけたいのは、67%から50%に下がる181日目以降です。1年前後の育休なら、後半の数か月がいちばん薄くなります。保育所に入れないなどの事情があれば最長2歳まで延長できますが、そこも50%のままです。

復職後も、すぐ元に戻るとはかぎりません。時短勤務なら給与はその分下がります。育児時短就業給付金(2025年4月創設、2歳未満の子の時短勤務が対象)は賃金額の10%を支給しますが、下がった分を埋めきるものではありません。

見落としやすいのが住民税です。前年の所得にかかるため、収入が下がっている年にも前年ぶんの納付が続きます。給与から天引きできない場合は納付書払いや、休業前の給与からのまとめ払いになることも。扱いは勤務先に確認を。

育児休業給付金は原則2か月ごとの支給で、最初の振込までに数か月かかることもあります。もらえる額と口座に入る時期は別の話です。その間をしのぐ現金は手元に置いておきたいところ。

審査を受ける時期で、収入の見られ方が変わる

審査では、源泉徴収票や課税証明書といった、確定した収入の資料が使われます。同じ世帯でも、時期で見え方が変わります。

大切なのは、有利な時期を狙うことではありません。妊娠や育休の予定があるなら、伏せずに早めに伝えて扱いを聞いておくこと。事前審査は通ったのに本審査で条件が変わる事態を避けやすくなります。

返済額を「二人分の収入」で決めきらない

谷の深さと長さがわかったら、返済額の決め方に反映させます。考え方は3つ。

1. 谷の期間の家計を、月単位で書き出す

「8割くらいなら大丈夫」で済ませず、実際の金額を並べます。休業中の手取り見込み、住民税、保育料、増える食費。そこから返済額を引き、毎月の不足額を出す。それが12か月続くなら、合計が用意しておきたい金額です。

2. 片方の収入だけで、家計が回る返済額かを見る

二人の収入の合計から逆算すると、返済額は上限に近くなりがちです。目安として、収入の多いほうの手取りだけで、返済と最低限の生活費がまかなえるかを確かめてみてください。変動金利ならなおさらです。収入が下がる時期に金利の見直しが重なると、返済額も上がることがあります。

3. 手元の現金と、控除の枠を使いきれるかを見る

この谷を越えるための現金は、頭金とは別に確保しておきます。出産費用には出産育児一時金として原則50万円(2023年4月以降、産科医療補償制度に加入する医療機関で妊娠22週以降の出産)が出ますが、病院によっては足が出ることもあります。

住宅ローン控除にも影響が出ます。年末のローン残高の0.7%を所得税から差し引く制度で(2022年以降に入居した場合の控除率)、引ききれない分は翌年度の住民税から控除されます。その上限は所得税の課税総所得金額等の5%、かつ97,500円。納めている税金より控除枠が大きければ、その年は使い切れません。給付金は非課税ですから、休業した年は枠を余らせることも。ペアローンなら、借入額の配分を決めるときに意識したい点です。

夕方のあかりが灯った、静かなリビングの窓辺

まとめ——谷の深さと長さを、先に描いておく

産休・育休で手取りが下がるのは、あらかじめ織り込める変化です。67%の期間は手取りで8割程度、ただし上限あり。181日目からは50%に下がり、復職後も時短ならすぐには戻らず、前年ぶんの住民税も続きます。

この谷を月単位の金額に置き換えて、必要な現金の総額を出しておく。返済額は、二人分の上限からではなく、片方の収入で回る水準から考えてみる。子どもを迎える時期は思いどおりにいかないもの。時期を当てにいくのではなく、いつ来ても越えられる形にしておく。そのほうが、家づくりのあとの何十年を落ち着いて過ごせます。